【一関市長インタビュー】世界初の加速器・国際リニアコライダーを東北へ、新産業、技術の集積地に

一関市では「国際リニアコライダー」という装置の誘致実現に向けて、市をあげて取り組んでいます。
勝部市長に、誘致にかける想いや、具体的な取り組みについてお聞きしました。
[mokuji]
在職10年。これまでの経験を故郷のために役立てたい
市長に就任する以前は、岩手県の職員として働いていました。
総務などの内部管理系の部署にいた経験はなく、ポートセールス(港湾振興)、企業誘致、雇用対策といったことに長く取り組んでいました。県のセールスマンですね。
また、本日のインタビューのテーマの「国際リニアコライダー(以下・ILC)誘致」を担当する部署に長くいました。
平成5年当時の知事からの特命事項で、その後、県を退職するまで、そして今もそれを背負っています。
県庁退職後、すぐに一関市長に就任されたそうですが、どのようなきっかけがあったのですか?
定年を迎える1年程前のことです。
当時、私は県の政策担当を務め、その後、企画理事として振興局長を務めていたのですが、一関市の経済界の方々から、「最後のエネルギーを故郷の一関市のために使ってほしい」という要請を頂きました。
私も「今までの経験を故郷で発揮できるのなら、それが一番良い」と考え、市長選に立候補することにしました。
なぜ私が声を掛けられたのか、その真意は正直分かりませんが、地元の方々にとっては、一関市にILCを誘致したいという気持ちがことのほか強かったことが後日わかりました。
県庁時代に私が、ILCの誘致を担当していたことが影響していたのではないでしょうか。
世界に1つだけの次世代の加速器”ILC”とは
そもそもILCとは何なのですか?
ILCとは、一言で言うと「次世代の直線型衝突加速器」です。
ILCを用いて、素粒子を、電気や磁気の力で光速近くまで加速して超高エネルギーで正面衝突させる実験を行うもので、この実験により、宇宙創成の直後の「エネルギーのかたまり」、いわゆるビッグバンを再現することが可能になります。
これにより、「どのようにして宇宙が生まれ、物質が生まれたのか」という人類にとっての謎の解明に近づくことができるようになるのです。
なぜ一関市が候補地に挙げられているのでしょう?
ILCの建設には、活断層のない固い安定した岩盤が必要とされます。
岩手県奥州市、一関市、宮城県気仙沼市にまたがる北上山地には、約50キロメートルにもおよぶ固く安定した花崗岩帯があり、活断層もありません。
ILCは巨大な実験装置で、建設コストも大きいため、国際協力によって世界に1つだけ建設することになっていて、国際的にみても最有力候補は北上山地とされています。
そのため、文部科学省では有識者会議を設置して本格的に検討を行ってきました。
順調に進めば、2020年代前半から建設工事が始まり、約10年後に完成する見込みです。
高エネルギー加速器研究機構が運営するサイト「ILC PROJECT」では、ILCの仕組みや、計画について解説する漫画も公開されています。
優秀な研究者が一関市に集結すると、どんなモノが生まれるのか?
「ILCが実現すればこういう産業が新たに誕生します」とか、「こういう分野が発展します」と言い当てるのは極めて難しいです。
というのも、欧米の素粒子物理学の実験施設が所在する都市の産業の状況を見ると、どんなものが飛び出すかわからないからです。
ILCの場合は、従来の円形の加速器ではなく、リニア(直線型)になるので、今までとは出来ることが桁違いになるのです。
ILCが実現した後に「何が飛び出してくるのか?」というのは、わくわくどきどきすることですね。
代表的なものとしてWorld Wide Web、いわゆるインターネットが挙げられます。
インターネットは、スイスにある欧州原子核研究機構(CERN)で生まれたんです。
CERNには約100ヵ国の研究者たちが集まっています。
各国の優秀な研究者たちの間で情報共有する方法として生まれたのが「WWW」なのです。
ILCもCERNや他の施設と同じように研究者が一か所に集まるので、「今度は何が出てくるんだ?」という話になっています。
研究者だけではなく、我々一般の人間にとっても極めて身近なモノが誕生する可能性は非常に高く、この点に関しては大いに期待して良い部分だと思います。