『首長マガジン』の創刊から３年。首長を支える情報誌の創刊当初から代表・菅野永の右腕として雑誌づくりの現場を支えてきた高野智史に、「首長マガジン」への想いと「カンケイチ」を上げるという新たな挑戦について聞いた。（インターン・森宥利花）

首長の「孤独」を知った日

「首長って、本当に孤独なんです」

高野は、静かにそう言った。首長は地域に一人しかいない。職員にも議員にも本音を言えず、時に味方だと思っていた人が政敵に回ることもある。

「自治体のトップとして、全ての責任を負う。けれど、相談できる相手はいない。そういう現実を、菅野が取材を通して感じ取っていたのをそばで見てきました」

その“孤独の中にある責任”を少しでも軽くできないか――。その思いが『首長マガジン』の根底に流れているという。

代表・菅野との出会いは、10年前の教室から

高野と代表・菅野との出会いは、約10年前。仙台市のグロービス経営大学院だった。東北ソーシャルベンチャープログラムという授業で、菅野と同じチームになり、職人の技術を活かした“オーダーメイド家具”のビジネスプランを一緒に作ったという」

授業内の活動ながら、二人は実際に職人やリノベーション業者に取材へ赴くほど熱中した。

「当時から、菅野は“人の想い”を軸に動く人でした。終わった後に『いつか一緒に仕事したいですね』と言われたのが、すごく印象に残っています」

それから７年後――。ある日、菅野から『首長マガジン』の構想を聞かされることとなった。

「首長って誰ですか？」から始まったプロジェクト

「最初、『首長』って言葉すらよく分かってなくて（笑）」

けれど、菅野が語った首長たちの現状。「失敗が許されない」「誰にも相談できない」「孤独な中で意思決定している」という話に、強く心を動かされたという。

「そんな人たちを支える情報誌があるなら、自分も力になりたいと思いました」

その時点ではまだ雑誌の形も決まっていなかった。高野は紙面のルール作りから、営業設計、デザイナー探しまで、ゼロからすべてを整えた。

『首長マガジン』創刊号が発行されたのは、2023年７月31日。半年間の立ち上げ期間を経てのスタートだった。

カンケイチを上げる――“信頼の温度”を高める挑戦

編集部が掲げた戦略テーマは「カンケイチを上げる」。カンケイチとは、首長と編集部の“関係値”のことだ。「関係知」「関係智」「関係地」「関係値」という４つの柱で構成されている。

「一言で言えば、“首長との信頼関係をどう深めるか”です。アンケートの回答数や取材回数も大事ですが、僕が重視しているのは“温度”。首長さんが『この人たちには本音で話せる』と思ってもらえる関係。それがあって初めて、本当に意味のある情報が生まれると思っています」

カンケイチの“上げ方”に正解はない。取材やイベント、日常の何気ないやり取りまで、すべての瞬間を「関係を育てる時間」と捉えている。

共創の森という考え方

社内ではいま、「共創の森」というキーワードが掲げられている。首長や自治体、職員、企業、そして市民までがゆるやかにつながる“関係の森”をつくるという構想だ。

「木は一本だけでは生きられません。森のように根が絡まり合うからこそ、倒れずにいられる。首長マガジンも、そういう“共に生きる森”でありたい。

首長さんの経験や悩みが、別の自治体のヒントになったり、若い世代のモチベーションになったりする。そんな循環を生みたい」

“共創の森”という言葉には、取材の積み重ねや、自治体を超えた連携への希望が込められている。

人と人の信頼から、地域の未来へ

最後に、今後の展望を尋ねた。

「これからの10年で、20代・30代の新しい首長が次々と誕生します。そのとき、僕たちはどんな形で寄り添えるか。紙だけでなく、デジタルでも“人の温度”を伝えられるメディアをつくっていきたい」

高野の言葉のひとつひとつには静かな情熱が込められている。数字やデータよりも、相手の心に寄り添う姿勢。それは、全力優という社名にふさわしい“優しさの全力”だ。

「首長を支えることは、関係を育てること。その積み重ねが、いつか地域を変える力になる」

高野の言葉には、確かな手応えと未来への希望が宿っていた。

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