【涌谷町長インタビュー】財政非常事態宣言に一点突破で立ち向かう!新町長就任の覚悟とは?

2019年1月、人口減少の影響による自主財源の減少や社会保障費、病院事業等への繰出しが増加した危機感から、財政非常事態宣言を自ら出した涌谷町。
現職だった大橋信夫氏の急死という異例の事態を受けて、今年5月に新たに町長に就任した遠藤釈雄(えんどうとくお)町長は、どのような想いを持って執務にあたっているのでしょうか?
涌谷町長に就任した覚悟や財政再建に向けた道筋、町の将来像についてお送りします。
緊急事態の涌谷町でトップになる覚悟
「町民から”町長としての覚悟”を問われることも多々あるが、この厳しい状況の中で町長になると決断をしたことが私にとって最も重たい覚悟だった」と語る遠藤町長。
どのような覚悟を持って町長に立候補したのでしょうか?
「私はもともと町議会議長で、実は町長に立候補することは考えていませんでした。
議員はそれぞれの専門分野を見ていれば良いですが、町長は360度すべてを把握し考えなければなりません。当然、議員とは役割や責任が大きく異なるため、自分には町長が務まらないだろうと考えていました。
しかし、1月には財政非常事態宣言、4月には前町長の急死など、涌谷町は異例の事態となりました。
当時、信頼して町長を任せられる人が周りにいなかったこと、誰かが町長選挙に出なければならないという想いから、自ら町民のために立候補することを決意しました。
町長の仕事は今までの議員活動と異なり、町全体を見なければいけません。
病院経営などの諸問題についてまだ分からない点も多いですが、そこは町民や専門の方々の知恵も借りつつ共に考えていきたい、なんとか頑張っていきたいと考えています。」
財政非常事態宣言に至った要因
前町長は、2年後に町の貯金にあたる財政調整基金が赤字になってしまう恐れがあるとして今年1月に「財政非常事態宣言」を発令しました。
涌谷町では、財政健全化対策として、行財政改革を推進する決意を表明しています。
なぜこのような事態が起こっているのか、町長の目線から伺いました。
「やはり涌谷町国民健康保険病院への繰り出しが最も大きく、毎年4億円にまで上ります。
これが減らなければ財政は改善できません。
ただし、今すぐ財政破綻して、北海道夕張市のようになってしまうということはありません。国が定める財政の健全化判断比率は、町(会社)の倒産にしばしば例えられる”財政再生団体”となる数値とは乖離しているからです。
そのような情報が届いておらず、町内では行き過ぎた危機感を持った方もいらっしゃいます。
そのような方の誤解も解きつつ、財政を改善していきたいと考えています。」
財政再建に向け「一点突破」を狙う
町長が座右の銘として掲げている言葉に、「一点突破」があります。
複数の事象(面)を捉えて解決していくのでは無く、最も大事な課題(点)に集中して解決していこうという考え方です。財政再建についても、遠藤町長は一点突破を狙います。
「病院の財政が厳しい状態のうちは、他の水道事業や社会保障などを立て直そうとしても意味が無いと考えています。
なぜなら、病院単独で年間累計4億円にも上る繰り出しを続けている状況の中で、仮に他の事業の立て直しで得られたお金をつぎ込んでも、町の財政が良くならないからです。
今後の具体的な改善策については、「財政再建を考える会議」を開催し、町民や議会の意見を聞きながら進めていきたいと考えています。
7月下旬には第1回を開催しました。多様な意見をいただきましたが、すべての意見を反映することはできません。
今は緊急事態ですから、皆さんからいただいた意見の中で現実的に有効かを見極めて、改善していきたいと考えています。
私はこれらの議論を踏まえて、やるべきことを淡々とやっていきます。
病院が課題ということは明確に見えているので、そこの一点突破です。」
町の未来を担う人材育成
「町民の笑顔が多い町にしたい」と今後の意気込みを語る遠藤町長。
今はもちろん財政再建が最重要事項ですが、町民の笑顔を増やすためには、それ以外の仕掛けも考えていかなければなりません。
そこで遠藤町長が最も大事だと考えているのが、町内の人材育成です。
「やはり自分も含めて、年を取った人ほど既成概念にとらわれてしまいます。
正しいことを言ってるように聞こえるのですが、すでに誰かが先導的にやってきたことをただ語っているだけのことも多いです。
その一方で、若者には既成概念もありませんし、自分の命が長いです。若者が将来の話をするときは、真剣で中身があるものになっていると感じます。
町の未来を担う大切な存在だからこそ、若い世代には期待していますし、人材育成を大切にしたいと思っています。」
涌谷町で活躍する若者たち
人材育成という観点から、既に町で活躍する若者や教育政策についても伺いました。
町には精力的に活動する地域おこし協力隊の方々や、自ら複数の事業を営む方々もいらっしゃるとのことです。
「地域おこし協力隊は2名いますが、それぞれ自分の事業を町内で行っています。
1人は、これまでの活動を通して地域の住民の皆さんと一般社団法人を設立し、外国人観光客をもてなすための小さな宿泊施設を整備する予定で、涌谷町のインバウンド面での貢献が期待されています。
もう1人は、地域の生産者と連携し、「食」にまつわる開発・情報発信をしています。
一例として、涌谷産のブランド米として機能性玄米食専用米「金のいぶき」がありますが、その特徴を活かした甘糀やアイスクリームなどの商品を開発し販売しています。
地域おこし協力隊を卒業した後も、この町で事業をすることを視野に入れてくださっているようで、とても心強く感じています。
町内には他にも、飲食店3つとスケートボードショップを同時に経営している30代の若手経営者のように、自ら事業を起こす若者もいます。
このように町の未来を担っていくような若者をうまく巻き込み、サポートしていきたいです。
こういった事業家が1人生まれれば、その人が周りの1000人に良い影響を与えることができると考えているからです。」
お金がないからこそ教育投資
「お金が無い時にこそ、若者への教育政策を一番しっかりやるべきだと考えています。」
こう話す町長は、短期的ではなく長期的な視点で若者教育に取り組もうとしています。
「もちろん今、一番大事なのは財政再建です。
しかしコストを切り詰めた上で投資したい分野としては、子育て支援も含めた教育関係の向上。これまでも中学生を対象にイングリッシュキャンプを開催してきました。
私は、涌谷町の若者の未来を考えた時に、英語を話す能力は必須だと考えています。海外の人が涌谷に来たら、中学生でも道案内できるくらい英語が話せるようになって欲しいです。
また、涌谷高校の学生を集めて駅前の開発についてディスカッションをしたこともありました。
学生は一番駅を利用している存在なので、利用しなければ気づかないような意見をくれます。当たり前のことも多いですが、そのことに気づかせてくれる貴重な存在です。
若者は上手な表現で伝えられないことも多いですが、その表現を馬鹿にするような大人ではいけません。その言葉の中から良いところを吸収することが大事です。
今後も若者の教育に注力し、町の未来を担う若者を育てていきたいと考えています。」
緊急事態の涌谷町で、並々ならぬ覚悟を持って町長に就任した遠藤町長。
町長の言葉にはとても力強いものを感じました。
謙虚な姿勢で、町の若手人材を応援する姿が印象的でした。
貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!
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